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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)655号 判決 1971年11月04日

西宮市甲陽園西山町一三番七号

原告

合田松造

右訴訟代理人弁護士

倉田勝道

右訴訟復代理人弁護士

宮下靖男

右同

古我知賢二

大阪市此花区伝法町北一の一

被告

此花税務署長

千葉秀男

右指定代理人検事

二井矢敏朗

右大蔵事務官

辻本勇

右同

畑中英男

右同

松井三郎

右法務事務官

池田孝

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

1  被告が昭和四〇年九月二九日付でなした原告の(一)昭和三八年分の所得税について、総所得金額を一、八二五、〇〇〇円とする更正のうち、七七五、〇〇〇円を超える部分、(二)昭和三九年分の所得税について、総所得金額を一、六〇七、四九三円(裁決により一部取消された後の金額)とする更正のうち、七〇二、〇〇〇円を超える部分をいずれも取消する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

旨の判決

二、被告

主文同旨の判決

第二、当事者の主張並びに答弁

一、請求原因

1  原告は昭和三八年、三九年において大阪市此花区四貫島千鳥町一七番地で運送業を営んでいたものであるが、被告に対し(一)昭和三九年三月三日、昭和三八年分の所得税につき、事業所得金額五五〇、〇〇〇円、不動産所得金額二二五、〇〇〇円、総所得金額七七五、〇〇〇円としてさらに(二)昭和四〇年三月一日、昭和三九年分の所得税につき、事業所得金額四七七、〇〇〇円、不動産所得金額二二五、〇〇〇円、総所得金額七〇二、〇〇〇円として、それぞれ白色による確定申告をしたところ、被告は昭和四〇年九月二九日付で、右両年分の所得税について、いずれも事業所得金額

一、六〇〇、〇〇〇円、不動産所得金額二二五、〇〇〇円総所得金額一、八二五、〇〇〇円とする各更正処分をなした。

2  原告は、同年一〇月二一日右各更正処分について被告に対し異議申立てをしたが、同年一二月二四日右申立てはいずれも棄却されたので、昭和四一年一月一八日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四三年三月二一日同三八年分について請求棄却、同三九年分について総所得金額を一、六〇七、四九三円とし、その余を棄却する旨の各裁決がなされ、同年五月一〇日原告に各通知された。

3  しかしながら、原告の右両年分の事業所得金額は各確定申告額のとおりであるから、被告の更正処分はいずれも違法であつてここにその取消しを求める。

二、請求原因に対する被告の認否および主張

(認否)

1 請求原因1、2の事実はいずれも認める。

2 同3の事実のうち、不動産所得金額が原告主張のとおりであることは認めるが、事業所得金額は争う。

(主張)

1 原告の昭和三八年分の事業所得金額は一、九八四、六三八円(被告は一、九九四、六三八円と主張するが違算であると認める。)、昭和三九年分のそれは一、八三六、七八八円であつて、その算出内容は別表(一)のとおりである。

そして別表(一)記載の項目のうち当事者間に争いのあるのは運賃収入と燃料費についてだけであつて、燃料費の内訳は別表(二)、運賃収入は後記2のとおりである。

なお、必要経費は、そのうち燃料費等を除いて、原告が審査請求に際し、訴外大阪国税局長に提出した収入計算書記載額のとおりであつて、後記のとおり運賃収入金額の推計の基礎となつた主要経費である燃料費について被告の主張額と原告の計算額との差額はきわめて僅少であるから、原告計算の必要経費は実額計算によるほぼ正確なものと認められる。

2 運賃収入について

(一) 原告は、此花税務署職員が、原告の本件係争年分の所得金額などの調査をするに際し、同職員に対し原告の営業に関する運送日報、得意先元帳、売上帳、貨物受注控帳の呈示を拒否し、取引先の住所、氏名を明らかにしないために、被告は、原告の係争年分の事業所得の実額算定ができなかつた。

(二) そこで、被告は、やむなく原告の運賃収入を次のとおり推計によつて算定した。すなわち、

原告の係争各年分の運送燃料消費量より一台一日当りのガソリン・軽油消費量を算出し、それに燃料消費量一リツトル当りの走行粁数を乗じて一台一日当りの運行粁数を計算し、社団法人大阪府トラツク協会発行の貨物自動車運賃早見表により、一台一日当りの走行粁数に対する運賃収入を算定し、それに稼働自動車台数、稼働日数を各乗じて、係争各年分の収入金額を推計したものである。

(昭和三八年分の原告の運賃収入)

(イ) 原告の使用車

原告は、昭和三八年において、ガソリン使用車四台(各二屯積)、軽油使用車二台(六屯積、五屯積各一台)を事業に使用していた。

(ロ) 原告のガソリン・軽油消費量

原告は、本件係争の昭和三八年において、ガソリン、軽油を株式会社津田石油店だけから仕入れていたものであるが、右燃料の期首期末のたな卸高が不明のため、期首期末とも同一量とみなし、同年中の仕入量を消費量とみなして算出した。

昭和三八年におけるガソリン消費量 一三、二七四・五リツトル

同 軽油消費量 八、五一九・四リツトル

(ハ) 一台一日当りのガソリン・軽油消費量

年間燃料消費量を年間稼働日数三〇〇日で除し、さらに、年間平均稼働自動車台数(保有自動車台数に平均実働自動車率を乗じたもの、社団法人大阪府トラツク協会作成資料「以下協会資料という」によれば、平均実働自動車率は八五・三パーセントである。)で除すれば、一台一日当りの燃料消費量が算出される。

一台一日当りのガソリン消費量 一三リツトル

(算式) 13,274.5l÷300日÷(4台×0.853)=13.0l

一台一日当りの軽油消費量 一六・七リツトル

(算式) 8,519.4l÷300日÷(2台×0.853)=16.7l

(ニ) 一台一回平均運行粁数

協会資料によれば、ガソリン消費量一リツトル当りの走行距離は五粁、軽油消費量一リツトル当りの走行距離は四・六粁であるから、これを(ハ)記載の消費量に乗じて一台一日当りの全走行距離を算出し、これに実車率(貨物を積載して走行する距離の全走行距離に対する比率・協会資料によると五六・五パーセント)を乗じて運行粁数(実車走行粁数)を算出し、さらに、これを一台一日当りの運行回数(協会資料によると、ガソリン使用車につき四・一回、軽油使用車につき二・八回)で除すれば、一台一回平均運行距離が算出される。

ガソリン使用車 八・九五粁

(算式) 5粁×13.0l×0.565÷4.1回=8.95粁

軽油使用車 一五・五粁

4.6粁×16.7l×0.565÷2.8回=15.50粁

(ホ) 年間運賃収入高 六、九一九、五七八円(被告は六、九二九、五七八円と主張するが違算であると認める。)

一台一回平均運行粁数に対する運賃料金を前記運賃早見表(大阪陸運局が昭和三二年八月二四日認可の運賃料金表に基き、大阪府トラツク協会が業者のため便宜作成したもの。乙第四号証の三)によつて算出し(ガソリン使用車の一台一回の平均運賃料金は九五七円、軽油使用車のそれは二、〇四三円となる。)、これに前記年間平均稼働自動車台数、年間稼働日数および運行回数を各乗ずれば、年間運賃収入高が算出される。

(1) ガソリン使用車 四、〇〇二、一七四円(被告は四、〇一二、一七四円と主張するが、違算であると認める。)

(算式) 957円×4.1回×3.4台×300日=4,002,174円

右一台一回平均運行粁数に対する運賃料金九五七円の算出内容は左のとおりである。

早見表によると、ガソリン使用の二屯積車の一台一回の車扱重量制運賃は運行粁数一〇粁までの場合、つぎのとおりである。(ⅰ)実重量七五〇瓩まで七四〇円(ⅱ)同一、〇〇〇瓩まで八四〇円(ⅲ)一、五〇〇瓩まで一、〇三〇円(ⅳ)同二、〇〇〇瓩まで一、二二〇円。以上平均九五七円

(2) 軽油使用車 二、九一七、四〇四円

(算式) 2,043円×2.8回×1.7台×300日=2,917,404円

右一台一回平均運行粁数に対する運賃料金二、〇四三円の算出内容は左のとおりである。

早見表によると、軽油使用の五屯あるいは六屯積車一台、一回の車扱重量制運賃は運行粁数一六粁までの場合つぎのとおりである。(ⅰ)実重量三、〇〇〇瓩まで一、八二〇円(ⅱ)同四、〇〇〇瓩まで一、九九〇円(ⅲ)同五、〇〇〇瓩まで二、三二〇円、以上平均二、〇四三円

右計 六、九一九、五七八円

(昭和三九年分の原告の運賃収入)

(イ) 原告の使用車 昭和三八年に同じ。

(ロ) 原告のガソリン・軽油消費量

消費量算出方法は前記昭和三八年分のそれに同じ。

ガソリン消費量 九、一六〇、・五リツトル

軽油消費量 六、一一六リツトル

(ハ) 以下昭和三八年度と同様の計算をすれば、年間運賃収入は、五、八四四、四九八円である。

(1) ガソリン使用車 三、四〇八、三三〇円

(算式) 9,160.5l÷300日÷34台=8.9l(一台一日当り消費量)

5粁×8.9×0.565÷41回=6.13粁(一台一回平均運行粁数)

815円×4.1回×3.4台×300日=3,408,330円

右一台一回平均運行粁数に対する運賃料金八一五円の算出内容は左のとおりである。

早見表によると、ガソリン使用の二屯積車一台一回の車扱重量制の運賃は運行粁数八粁までの場合、つぎのとおりである。(ⅰ)実重量七五〇瓩まで六二〇円(ⅱ)同一、〇〇〇瓩まで七一〇円(ⅲ)同一、五〇〇瓩まで八八〇円(ⅳ)同二〇〇〇瓩まで一、〇五〇円。以上平均八一五円

(2) 軽油使用車 二、四三六、一六八円

(算式) 6,116l÷300日÷1.7台=11.9l(一台一日当り消費量)

4.6粁×11.9l×0.565÷2.8回=11.04粁(一台一回平均運行粁数)

1,706円×28回×1.7台×300日=2,346,168円

右一台一回平均運行粁数に対する運賃料金一、〇六円の算出内容は左のとおりである。

早見表によると、軽油使用の五屯あるいは六屯積車一台一回の車扱重量の運賃は運行粁数一二粁までの場合、つぎのとおりである。(ⅰ)実重量三、〇〇〇瓩まで一、五一〇円(ⅱ)同四、〇〇〇瓩まで一、六六〇円(ⅲ)同五、〇〇〇瓩まで一、九五〇円。以上平均一、七〇六円

右計 五、八四四、四九八円

(三) 推計の合理性

右推計は、根基を貨物自動車の燃料消費量におき、これと走行距離、走行距離と運賃収入が各比例する関係にあること、右推計計算における平均実働自動車率、一粁当りガソリン・軽油消費量、実車率、車両の運行回数の数値はいずれも、原告の所属する社団法人大阪府トラツク協会作成資料より抽出されたものであり、運行粁数に対する運賃料金値は、大阪陸運局認可の料金表に基くものであること、右数値ならびに料金値は、貨物自動車運送業者に一般的平均的なものであることから合理性がある。

3 以上、本件各更正における所得金額は前記認定金額の範囲内であつて過大認可でなく原告の請求は理由がない。

(ちなみに被告は、昭和三七年分の所得税についても本件係争年分と共に調査し、その確定申告額四五〇、〇〇〇円を一、六〇〇、〇〇〇円と更正し、本件係争年分の更正と共に昭和四〇年九月一七日原告に通知したが、昭和三七年分の更正については不服の申立がなかつたものである。)

三、被告の主張に対する原告の認否および主張

(原告)

1 被告主張1の事実のうち、運賃収入、一般経費のうち燃料費、所得金額はいずれも否認し、その余は認める。

2 同2(一)の主張は争う。

原告の営む運送業は、極めて小規模な個人企業であるため原告において同項記載のような帳簿類の保存は完全でなく、提出不能であつたのであつて、提出を拒否したものではない。

3 同2(二)(三)の主張は争う。

(主張)

1 被告のした推計は合理性を欠くものである。

(一) 一般に統計を作成するにおいては、誰が、いつ、どこで、何を、誰に、どのようにして調査作成したかということを明らかにし、その調査の趣旨、方法統計利用上の注意が示されねばならない。ところが被告は、本件において使用した協会資料の統計数値は一般的平均的数値であると単に主張するだけで、前記の統計主体、日時、場所、目的、方法等をいずれも明らかにしないから、右統計資料を無条件に原告に適用することは不合理である。

(二) 統計の対象について

被告が推計に使用した統計は、その対象となるべきもの全部につき調査測定(全数調査)して作成されたものか、あるいは、その一部につき調査測定(標本調査)して作成されたものか不明であるから、右統計による前記適用数値はいずれも合理性がない。

例えば、被告は、ガソリン消費量一リツトル当りの走行粁数を五粁と主張するが、右数値は対象車両の排気量、使用年数、全数調査によるものが、標本調査によるものか、あるいはデータの偏差如何が明らかでない以上、推計資料となし難く、また一台一日当りの運行回数は四・一回と主張するが、右数値は対象企業の経営規模、保有車両、雇傭人員等がそれぞれ明らかでない以上、右数値を適用するについて合理性に欠ける。

(三) 統計の度数分布について

統計を行なうとき、調査対象の「何か」を標識と言い、その標識が調査対象の中でどのような変化をあらわしているかということを度数分布というのであるか(例えば本件で保有台数別企業の調査において二屯積貨物自動車保有数一〇台の企業は幾社、一五台保有の企業は幾社という場合、保有台数別に調査された企業数を度数という。)、統計において度数分布は重要な意味をもつものである。一般的に、平均は度数分布の中心的なものを示すが、被告主張の統計には度数分布ならびに標準偏差ないし分散数値(標識の値いが平均のまわりにどのようにちらばつているかを示すもの)が示されていないため、協会資料の各種度数分布における原告の位置が不明であるから、直ちに前記数値を、原告に適用するについて合理性があるとはいえない。

2 原告における特別事情

(一) 原告の昭和三八年、三九年における保有車両は小型トラツク四両(ガソリン使用)大型トラツク二両(軽油使用)合計六両、運送業に従事する者は原告のほか被用者たる運転者二、三名であつて、大阪府の全貨物運送業者の平均的経営規模(保有車両一八両、従業員数三九名)に著しく懸隔する。

(二) 原告の保有車両のうち五両はいずれも使用年数一、二年を経た中古トラツクを購入したものであるから、その走行一粁当りの燃料消費量は、通常車両に比し大である。

(三) 原告の雇傭した運転者は三、四箇月で勤務をやめて安定せず、また同業者多数のため競争がきびしく取引先はいずれも小企業であつたため、経営の基礎は不安定で、収入も多くはあげ得なかつたので、原告は昭和四〇年九月二九日遂に廃業した。

3 以上、被告主張の統計にもとづき推計した被告算定の原告の運賃収入額は、その推計に用いた係数が合理的な基礎を欠き不当である。(なお、原告が昭和三七年分の所得税の更正に不服申立をしなかつたのは、(昭和三七ないし三九年分全部につき、不服申立をなすと被告の心証を害するおそれがあることを考えたためである。)

四、原告の主張に対する被告の反論

1  原告の主張2について

(一) 被告が本件推計をなすについて使用した係数はいずれも原告の主張するように経営規模によつては変動せしめられるものではなく、これらを捨象した小型四輪車、大型四輪車それぞれに対する数値として集計平均されたものである。

(二) 大阪府の小型四輪車使用事業者の平均保有車両数は七・五台である。したがつて原告はおおむね平均的事業者に該当する。

ところで、一般に大型車については、一台当り運転者助手各一名、小型車については運転者一名を要するから、大型車二台、小型車四台を有する原告においては従業員八名(うち原告および原告二男泰三を含む)がいたことになる。右は、当事者間に争いのない雇人費(別表(一)参照)が、運転者四名および助手二名として関東トラツク協会作成資料(同資料によれば、月平均賃金は、運転者につき三二、九八〇円、助手につき二一、九九四円である。)によつて算出した年間雇人費二、一一〇、八九六円と略一致することからも推認される。

(算式) 32,980円×12月×4人=1,583,040円(運転者年間平均賃金)

21,994円×12月×2人=527,856円(助手年間平均賃金)

右計 二、一一〇、八九六円

(三) 原告が中古車両を購入使用していたかどうかは知らないが、協会資料は、中古車使用分も包括集計して作成されたものであるから、右資料に基づく一粁当り燃料消費量は、中古車を使用したと主張する原告にも適用され得るものである。

(四) 原告は、株式会社児島鉄工所等の法人組識の数社と取引し、かつ此花運送株式会社、光洋運送株式会社等の下請をなしていたもので経営基礎は強固なものであつた。

(ちなみに、原告は経営困難なため昭和四〇年に廃業したと主張するが、昭和四〇年七月合田運送株式会社(資本金二、五〇〇、〇〇〇円)を設立し、原告、その妻クミ、その子泰三が取締役に就任し、原告個人の営業権を右会社に譲渡したうえ、同年九月個人事業を廃止したものである。)

2  同業者の事業所得との比較(昭和三八年度)

原告の同業者の保有する貨物自動車一台当りの平均収入金額は、一、三六一、〇〇〇円、平均所得率は五三・九三パーセントであつて、原告の事業の状況は同業者と特に異なるところもないので、これらによつて原告の所得金額を算定すると一、九八九、九一六円となり、被告主張の推計による算定に近似する。

(算式) 1,361,000円×0.5393×6台-2,414,007円=1,989,916円

(特別経費)

第三、証拠

1  原告

(一)  原告本人尋問の結果援用

(二)  乙号各証の成立を認める。

2  被告

(一)  乙第一号証の一ないし七、第二号証の一、二、第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし六、第五ないし第一二号証提出

(二)  証人竹内豊の証言援用

理由

一、請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで本件係争各年における原告の総所得金額において判断する。

1  まず、本件係争の各年における所得のうちの不動産所得金額については当事者間に争いがない。

2  つぎに本件係争の各年における事業所得金額について判断する。

(一)  推進方式採用の適法性について

およそ、所得金額算定にあたつては可能な限り実額により把握すべきであるが、所得実額の把握が著しく困難もしくは不可能である場合、たとえば会計帳簿の備付けがないか、あつても不備であつたり、その記載内容が不正確なとき、あるいは納税者の税務調査への全面的協力が得られないときは推計課税の方法を採ることが許さるべきであるところ、本件では原告において事業所得の実額を把握するに足る帳簿その他の書類を備え付けておらず、そして他にこれを明らかにする資料の提出もみられないから(この点当事者間に争いがない。)被告において事業所得金額を算定するために推計方式を採用したことはやむえないと認められる。

(二)  運賃収入

(1) 推計方式の適法性について

被告は、原告の運賃収入を推計するにあたり、原告の係争各年のガソリン・軽油消費量を基礎として、その一台一日当りの各消費量を算出し、それに燃料消費量一リツトル当りの走行粁数を乗じて一台一日当りの走行粁数を計算し、これに実車率を乗じて運行粁数を算出し、これにより一台一日当りの運賃収入を算定し、それに嫁動自動車台数、嫁動日数を各乗じて年間収入金額を算出する推計方式を採用しているので、その当否について検討するに、自動車の燃料消費量と走行粁数、走行粁数と運賃収入とは、ほぼ正比例する関係にあると考えられるから、右の如き推計方法を用いることは、運賃収入の推計方式として一般的に合理的なものと認むべく、したがつて被告が原告の運賃収入に右推計方法を採用したのは適法である。

(2) 右推計方式による運賃収入の算定過程

(イ) 原告の使用車両

原告が本件係争の各年においてガソリン使用車四台(各二屯積)、軽油使用車二台(六屯積、五屯積各一台)を使用していたことは、当事者間に争いがない。

(ロ) 原告の年間燃料消費量

成立に争いのない乙第五号証によれば、原告は、株式会社津田仁石油店より、昭和三八年中ガソリン一三、二七四・五リツトル軽油八、五一九・四リツトル、昭和三九年中ガソリン九、一六〇・五リツトル軽油六、一一六リツトルをそれぞれ購入したことが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。

ところで、本件係争の各年におけるガソリン、軽油の各期首期末のたな卸高を認め得る証拠はないから、係争の各年における原告のガソリン、軽油の各消費量は右認定にかかる購入量と同一であると推認する。

(ハ) 一台一日当りの燃料消費量

年間燃料消費量を年間稼働日数で除し、さらに年間平均稼働台数(保有自動車台数に平均実働自動車率を乗じたもの)で除すれば、実働自動車一台一日当りの燃料消費量が算出される。

ところで年間稼働日数は、日曜、祭日を除き稼働するものとして、大型車小型車とも平均三〇〇日と認めるのが相当で、また、貨物自動車運送業における平均実動自動車率は、成立に争いのない乙第一号証の一、二、五(社団法人大阪府トラツク協会作成の一般区域貨物自動車運送事業運賃料金変更申請附属資料)によると、小型四輪車につき保有自動車数の八五・三パーセントであることが認められる。右平均実働率八五・三パーセントは大型四輪車についても妥当するものと解される。そうすると、原告の保有する小型四輪車(前記認定のガソリン使用車)四台、大型四輪車(前記認定の軽油使用車)二台に右平均実働率八五・三パーセントを乗じたものか、原告の本件係争の各年における平均自動車稼働台数で、ガソリン使用車のそれは三・四台、軽油使用車のそれは一・七台である。

以上により一台一日当りの消費量を算出するとつぎのとおりである。

(昭和三八年)

一台一日当りのガソリン消費量 一三リツトル

(算式) 13,274,5l÷300日÷(4台×0.853)=13.0l

一台一日当りの軽油消費量 一六・七リツトル

(算式) 8,519.4l÷300日÷(2台×0.853)=16.7l

(昭和三九年)

一台一日当りのガソリン消費量 八・九リツトル

(算式) 9,160.5l÷300日÷3.4台=8.9l

一台一日当りの軽油消費量 一一・九リツトル

(算式) 6,116l÷300日÷1.7台=11.9l

(ニ) 燃料一リツトル当りの走行粁数

成立に争いのない乙第一号証の一、二、三および第二号証の一、二(昭和三九年九月関東トラツク協会作成の事業区域を定める貨物自動車運送事業運賃料金の原価計算書)によると、ガソリン消費量一リツトル当りの走行粁数は四・六粁であることが認められる。

(ホ) 一台一日当りの走行粁数

前記(ニ)の一リツトル当りの走行粁数に(ハ)の一台一日当りの燃料消費量を乗ずると一台一日当りの走行粁数が算出される。

(昭和三八年)

一台一日当りガソリン使用者の走行粁数 六五粁

同 軽油使用車の走行粁数 七六・八二粁

(昭和三九年)

一台一日当りガソリン使用車の走行粁数 四四・五粁

同 軽油使用車の走行粁数 五四・七四粁

(ヘ) 実車率・運行粁数(実車走行粁数)

前掲乙第一号証の一、二、五によると、小型四輪車の重量制による実車率(貨物を積載して走行する距離の全走行距離に対する比率)は五六・五パーセントであると認められる。大型四輪車のそれも同じであると認めるのが相当である。そうすると一台一日当りの運行粁数(貨物を積載して走行する粁数)は前記(ホ)に認定の粁数に五六・五パーセントの係数を乗じたものである。

(昭和三八年)

一台一日当りガソリン使用車の運行粁数 三六・七二五粁

同 軽油使用車の運行粁数 四三・四〇三三粁

(昭和三九年)

一台一日当りガソリン使用車の運行粁数 二五・一四二五粁

同 軽油使用車の運行粁数 三〇・九二八一粁

(ト) 一台一日当りの運行回数(出庫回数)

前掲乙第一号証の一、二、五によると小型四輪車の一台一日当りの運行回数は四・一回であることが認められ、成立に争いのない乙第一号証の六、七によると大型四輪車の一台一日当りの運行回数は二・八回であることが認められる。

そうすると一台一回の運行粁数は(ヘ)の認定粁数を(ト)の回数で除したものである。

(昭和三八年)

一台一日一回当りガソリン使用車の運行粁数 八・九五粁

同 軽油使用車の運行粁数 一五・五〇粁

(昭和三九年)

一台一日一回当りのガソリン使用車の運行粁数 六・一三粁

同 軽油使用車の運行粁数 一一・〇四粁

(チ) 一台一回当りの運行粁数に対する運賃収入

成立に争いのない乙第四号証の一、三(大阪陸運局昭和三二年八月二四日認可の運賃料金表に基き、大阪府トラツク協会が業者のため便宜作成したもの)によると、ガソリン使用の二屯積車一台一回の車扱重量制運賃は運行粁数一〇粁までの場合(昭和三八年の場合)被告主張のとおり平均九五七円、八粁までの場合(昭和三九年の場合)被告主張のとおり平均八一五円であること、軽油使用の五屯もしくは六屯積車一台一回の車扱重量制運賃は運行粁数一六粁までの場合(昭和三八年の場合)被告主張のとおり平均二、〇四三円、一二粁までの場合(昭和三九年の場合)被告主張のとおり平均一、七〇六円であることが認められる。

(リ) 一台一日当りの運賃収入

一台の運行回数は(ト)に認定のとおり小型四輪車(ガソリン使用車)は四・一回、大型四輪車(軽油使用車)は二・八回であるから、前記(チ)に認定の運賃収入に右運行回数を乗ずると一台一日当りの運賃収入が得られる。

(昭和三八年)

ガソリン使用車一台一日の収入 三、九二三円七〇銭

軽油使用車一台一日の収入 五、七二〇円四〇銭

(昭和三九年)

ガソリン使用車一台一日の収入 三、三四一円五〇銭

軽油使用車一台一日の収入 四、七七六円八〇銭

(ヌ) 原告の本件係争各年における運賃収入

前記(リ)に認定の一台一日当りの運賃収入に、前記(ハ)に認定の原告の保有自動車の平均稼働台数および年間稼働日数を乗ずると年間収入が算出される。

(昭和三八年) 六、九一九、五七八円

(算式)

ガソリン使用車 3,923円70銭×3.4台×300日=4,002,174円

軽油使用車 5,720円40銭×1.7台×300日=2,917,404円

(昭和三九年) 五、八四四、四九八円

(算式)

ガソリン使用車 3,341円50銭×3.4台×300日=3,408,330円

軽油使用車 4,776円80銭×1.7台×300日=2,436,168円

(3) 原告は、右推計の根基となつた統計資料(乙第一、二、四号証)の統計主体、日時、場所、方法、対象、度数分布等か不明のため、推計方法に合理性がない旨主張するか、成立に争いのない乙第一号証の一ないし五、第二号証の一、二、第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし六、証人竹豊の証言によれば、統計主体、日時、場所、方法はいずれも明らかであり、標本の抽出についても層別抜き取り法として格別恣意性も認められない。度数分布、標準偏差は、原告主張のとおり示されていないが、右をもつて乙第一、二、四号証を被告の推計の根基となすことに支障をもたらすということはできない。

(4) 原告の、右推計の根基として乙第一、二、四号証の採用を妨げる特段の事情として主張する事実についてはいずれも、これに符合する原告本人尋問の結果は弁論の全趣旨に照して信用できないし、ほかには右事実を認めるにたりる証拠はない。(成立に争いのない乙一二号証は未だ右事実を証するに足りない。

(三)  必要経費

(1) 一般経費のうち燃料費を除くその余の経費および特別経費の額は当事者間に争いがない。

(2) 燃料費について

成立に争いのない乙第五号証によれば、原告の一般経費として燃料費は昭和三八年において八〇二、三〇二円、同三九年において六一八、〇七三円と認められ、右認定を渡すにたりる証拠はない。

(3) 以上必要経費は昭和三八年においては四、九三四、九四〇円、昭和三九年においては四、〇〇七、七一〇円と認められる。

(四)  よつて、その余の判断をするまでもなく、運賃収入から必要経費を控除して得られる原告の事業所得金額は、昭和三八年分一、九八四、六三八円、同三九年分一、八三六、七八八円と認められる。

3  そうすると、原告の総所得金額は、昭和三八年分は不動産所得金額二二五、〇〇〇円、事業所得金額一、九八四、六三八円の合計二、二〇九、六三八円、同三九年分は、不動産所得金額二二五、〇〇〇円、事業所得金額一、八三六、七八八円の合計二、〇六一、七八八円と認められる。

三  以上、本件係争の各年の更正にかかる総所得金額は右認定にかかる総所得金総の範囲内であつて、本件各更正は総所得金額を過大に認定した違法はなく、したがつて原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上三郎 裁判官 矢代利則 裁判官 門口正人)

<省略>

別表(二)

<省略>

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